配偶者居住権と外国人配偶者

国際結婚した外国人配偶者のための配偶者居住権完全ガイド。配偶者居住権の基本要件・登記手続き・必要書類・相続税の配偶者控除の活用方法から、外国人配偶者特有の準拠法の問題や在留資格への影響、遺言書の作成まで網羅的に詳しく解説します。
配偶者居住権と外国人配偶者|国際結婚カップルが知るべき相続の新制度
国際結婚をして日本で暮らしている場合、パートナーが亡くなった後も今の家に住み続けられるのか不安に感じる方は少なくありません。2020年4月に施行された「配偶者居住権」は、残された配偶者の住まいを守るための画期的な制度です。外国人配偶者であっても、法律上の婚姻関係があればこの制度を利用できます。本記事では、相続・贈与と不動産に関連する配偶者居住権の仕組みから、外国人配偶者が活用する際の注意点まで、わかりやすく解説します。
配偶者居住権とは?制度の基本を理解しよう
配偶者居住権とは、令和2年(2020年)4月1日以降に発生した相続において、残された配偶者が被相続人(亡くなった方)の所有していた建物に引き続き無償で住み続けられる権利です。この制度は、民法改正により新設されました。
従来の相続制度では、配偶者が自宅に住み続けるためには建物の所有権を相続する必要がありました。しかし、自宅の評価額が高い場合、所有権を取得すると預貯金など他の財産を十分に受け取れないという問題がありました。
配偶者居住権は、建物の価値を「所有権」と「居住権」に分離して考えます。居住権は所有権より評価額が低いため、配偶者は住む場所を確保しながら、その他の財産もバランスよく相続できるようになりました。
配偶者短期居住権との違い
配偶者居住権には、「配偶者居住権」と「配偶者短期居住権」の2種類があります。
| 項目 | 配偶者居住権 | 配偶者短期居住権 |
|---|---|---|
| 存続期間 | 原則として終身(死亡まで) | 遺産分割確定日または相続開始から6か月のいずれか遅い日まで |
| 取得方法 | 遺産分割協議・遺贈・死因贈与・家庭裁判所の審判 | 法律上自動的に発生 |
| 登記 | 必要(第三者対抗要件) | 不要 |
| 対象 | 被相続人所有の建物に居住していた配偶者 | 被相続人所有の建物に無償で居住していた配偶者 |
| 譲渡 | 不可 | 不可 |
配偶者短期居住権は自動的に発生するため、手続き不要で最低6か月間は住み続けることができます。一方、長期的に住み続けるには配偶者居住権の設定が必要です。
配偶者居住権の成立要件と取得方法
配偶者居住権を取得するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
要件1:法律上の配偶者であること
法律婚の配偶者のみが対象です。事実婚(内縁関係)の場合は配偶者居住権を取得できません。外国人配偶者であっても、日本の法律に基づく婚姻届が受理されている場合や、本国法に基づく有効な婚姻が日本で認められている場合は対象となります。
要件2:被相続人が所有していた建物に相続開始時点で居住していたこと
配偶者が、亡くなった方が所有していた建物に、相続開始時(死亡時)に実際に居住していなければなりません。別居中の場合は原則として認められません。
要件3:以下のいずれかの方法で取得すること
- 遺産分割協議による取得
- 遺言(遺贈)による取得
- 死因贈与契約による取得
- 家庭裁判所の審判による取得
これらの要件は国籍に関係なく適用されるため、外国人配偶者も日本人配偶者と同じ条件で配偶者居住権を取得できます。外国人の日本不動産相続の基礎知識も合わせてご確認ください。
外国人配偶者が配偶者居住権を取得する際の注意点
外国人配偶者が配偶者居住権を活用する場合、日本人配偶者とは異なるいくつかの注意点があります。
準拠法の問題
国際相続における法律の適用では、「法の適用に関する通則法」第36条により、相続は被相続人の本国法によるとされています。つまり、亡くなった方が日本国籍であれば日本の民法が適用され、配偶者居住権も認められます。
一方、亡くなった方が外国籍の場合は、その方の本国法が適用される可能性があります。本国法に配偶者居住権に相当する制度がない場合、この権利を取得できない可能性があるため、事前に相続専門の弁護士・税理士に相談することが重要です。
必要書類の準備
日本人の相続手続きでは戸籍謄本が基本書類となりますが、外国人配偶者には日本の戸籍がありません。外国人が日本で相続する場合の必要書類として、以下の代替書類が求められます。
| 日本人の場合 | 外国人配偶者の場合 |
|---|---|
| 戸籍謄本 | 出生証明書(本国発行・アポスティーユ付き) |
| 住民票 | 住民票(日本在住の場合)または在留カードの写し |
| 印鑑証明書 | サイン証明書(在日大使館・領事館発行) |
| — | 婚姻証明書(本国発行) |
| — | 宣誓供述書(相続人であることの証明) |
これらの書類は取得に時間がかかることが多いため、早めの準備が必要です。特に本国からの書類は、翻訳と公証が必要な場合もあります。
在留資格への影響
外国人配偶者が「日本人の配偶者等」の在留資格で滞在している場合、配偶者の死亡後は在留資格の変更が必要になる可能性があります。配偶者居住権があっても在留資格が自動的に延長されるわけではないため、入国管理局への相談が必要です。ただし、日本に長期間居住している場合は「定住者」への変更が認められるケースが多いです。在留資格・ビザと不動産購入についても確認しておきましょう。
配偶者居住権の登記と評価方法
登記の重要性
配偶者居住権は、遺産分割協議や遺言で設定しただけでは第三者に対抗することができません。配偶者居住権の登記は必須であり、登記をしなければ、建物が第三者に売却された場合に権利を主張できなくなります。
登記手続きは以下のとおりです。
- 登記義務者:建物の所有権を取得した相続人
- 登記権利者:配偶者居住権を取得した配偶者
- 登記費用:登録免許税は固定資産税評価額の0.2%
- 注意点:登記できるのは建物のみで、敷地(土地)には登記できません
外国人配偶者の場合、登記に必要な書類が異なるため、司法書士に依頼することをおすすめします。
配偶者居住権の評価方法
配偶者居住権の評価額は、相続税の計算において重要です。評価額は以下の要素で決まります。
| 評価要素 | 内容 |
|---|---|
| 建物の固定資産税評価額 | 市区町村が決定する評価額 |
| 建物の築年数 | 法定耐用年数に基づく残存耐用年数 |
| 配偶者の年齢 | 厚生労働省の完全生命表に基づく平均余命 |
| 存続期間 | 終身の場合は平均余命、期間設定の場合はその期間 |
| 法定利率 | 民法所定の法定利率(現在3%) |
配偶者が若いほど、また建物が新しいほど、配偶者居住権の評価額は高くなります。一方、配偶者の年齢が高いほど評価額は低くなり、他の財産をより多く相続できるメリットがあります。
配偶者居住権のメリットとデメリット
メリット
- 住まいの確保と財産のバランス:自宅の所有権を取得せずに住み続けられるため、預貯金などの他の財産も受け取りやすくなります。
- 無償で居住可能:家賃を支払う必要がなく、固定費の負担が軽減されます。
- 配偶者の生活保護:特に高齢の配偶者にとって、住み慣れた家で安心して暮らし続けることができます。
- 相続税の節税効果:配偶者居住権は配偶者の死亡時に消滅するため、二次相続時に建物の評価額が上がり、結果的に節税効果が期待できる場合があります。
デメリット
- 売却・賃貸の制限:配偶者居住権は住む権利であり、所有者の承諾なく売却、リフォーム、第三者への賃貸はできません。
- 譲渡不可:配偶者居住権は第三者に譲渡できないため、現金化ができません。
- 修繕義務:通常の修繕費用は配偶者が負担する必要があります。
- 途中放棄の問題:介護施設への入所などで住まなくなった場合、放棄しても対価を受け取れないことがあります。
外国人配偶者にとっては、在留資格の問題や本国への帰国の可能性も考慮する必要があるため、不動産の生前贈与や他の方法との比較検討が重要です。
国際結婚カップルの相続対策|配偶者居住権を活用した準備
配偶者居住権を効果的に活用するためには、生前からの準備が欠かせません。
遺言書の作成
最も確実な方法は、遺言書を作成して配偶者居住権を遺贈することです。公正証書遺言であれば、相続開始後にスムーズに手続きを進められます。
遺言書には以下の内容を記載します。
- 配偶者居住権を設定する建物の特定(所在・家屋番号)
- 存続期間(終身か期間を定めるか)
- 建物の所有権の帰属先
生前の専門家への相談
国際結婚カップルの相続は複雑になりがちです。以下の専門家への相談を推奨します。
- 弁護士:準拠法の確認、遺言書の作成支援、遺産分割協議のサポート
- 税理士:相続税の試算、国際的な二重課税の回避の対策
- 司法書士:配偶者居住権の登記手続き、相続登記の義務化への対応
- 行政書士:在留資格の変更手続きのサポート
相続専門の弁護士・税理士の選び方を参考に、国際相続に詳しい専門家を選びましょう。
配偶者居住権以外の選択肢との比較
| 方法 | メリット | デメリット | 外国人配偶者への適性 |
|---|---|---|---|
| 配偶者居住権 | 住居確保+他の財産取得可能 | 売却・賃貸不可 | 日本に長期居住する場合に最適 |
| 所有権の相続 | 自由に売却・賃貸可能 | 他の財産の取得額が減少 | 日本に永住する場合に適切 |
| 生前贈与 | 相続時の紛争を防止 | 贈与税の負担 | 計画的な対策が可能 |
| 信託の活用 | 柔軟な財産管理が可能 | 費用がかかる | 複雑な家族構成に対応 |
外国人配偶者の相続税と配偶者控除
外国人配偶者も、日本の相続税の配偶者控除を受けることができます。法律上の婚姻関係があれば、配偶者が取得した遺産額のうち、1億6,000万円または法定相続分相当額のいずれか大きい金額までは相続税が非課税となります。
ただし、外国人配偶者の場合、在留資格や居住地によって課税範囲が異なります。
| 区分 | 課税対象財産 |
|---|---|
| 日本国内に住所あり(在留10年超) | 国内外すべての財産 |
| 日本国内に住所あり(在留10年以内・一時的滞在) | 日本国内の財産のみ |
| 日本国内に住所なし | 日本国内の財産のみ(原則) |
配偶者居住権の評価額は、配偶者控除の計算にも影響するため、資金計画と頭金の準備の段階から相続税対策を考えておくことが重要です。
まとめ:外国人配偶者の住まいを守るために
配偶者居住権は、国際結婚カップルにとって非常に重要な制度です。外国人配偶者であっても、法律上の配偶者であれば、日本人と同じ条件でこの権利を取得できます。
ただし、準拠法の問題、必要書類の準備、在留資格への影響など、外国人特有の注意点があります。大切なのは、以下の3つのポイントです。
- 早めの準備:遺言書の作成や必要書類の事前準備を行いましょう
- 専門家への相談:国際相続に詳しい弁護士・税理士・司法書士に相談しましょう
- 制度の正しい理解:配偶者居住権のメリットとデメリットを理解し、最適な方法を選択しましょう
外国人が日本で不動産を購入する完全ガイドや不動産の遺産分割協議と調停も参考にしながら、パートナーと一緒に将来の備えを始めてください。
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