遺言書の作成と不動産の指定

外国人が日本で不動産に関する遺言書を作成する方法を徹底解説。自筆証書遺言と公正証書遺言の比較、不動産の正確な記載方法、準拠法の問題、遺留分への対策、相続登記義務化への対応まで、必要な情報を完全網羅しています。
遺言書の作成と不動産の指定:外国人が日本で知っておくべき完全ガイド
日本で不動産を所有する外国人にとって、遺言書の作成は避けて通れない重要な手続きです。遺言書がない場合、日本の法定相続ルールが適用され、相続人間でのトラブルや長期にわたる手続きの停滞を招くことがあります。特に2024年4月1日からは相続登記が義務化され、外国居住の相続人も例外ではありません。本記事では、外国人が日本で遺言書を作成し、不動産を正確に指定する方法について、法的要件から実務上の注意点まで詳しく解説します。
遺言書が外国人不動産オーナーに必要な理由
日本の相続法は、被相続人(亡くなった方)の国籍に基づく準拠法の問題が生じるため、外国人にとっては特に複雑です。遺言書がなければ、日本の法定相続分に従った分割が行われますが、母国の法律との矛盾が発生する可能性があります。
遺言書を作成する主なメリットは以下の通りです:
- 相続人間のトラブル防止:誰がどの不動産を取得するかを明確にすることで、争いを回避できます
- 手続きの迅速化:遺産分割協議が不要となり、相続登記がスムーズに進みます
- 国際的な法的問題の回避:母国と日本の法律が異なる場合でも、遺言書で意思を明確にできます
- 相続登記義務への対応:3年以内の相続登記申請が義務化されたため、遺言書があると手続きが円滑です
相続・贈与と不動産の全体像を理解した上で、遺言書作成に取り組むことをお勧めします。
日本で認められる遺言書の種類
日本の民法では、主に3種類の遺言書が認められていますが、実務上利用されるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類です。外国人の場合、それぞれの特徴を理解した上で最適な方法を選択することが重要です。
自筆証書遺言
遺言者本人が全文を手書きで作成する遺言書です。費用がほとんどかからず、いつでも作成・修正が可能ですが、形式不備により無効になるリスクがあります。
作成要件:
- 遺言書の全文を自書すること(財産目録はパソコン作成も可)
- 作成日を正確に記載すること
- 遺言者が署名・押印すること
2020年7月からは法務局における自筆証書遺言書保管制度が開始され、紛失や改ざんのリスクが軽減されています。保管手数料は3,900円です。
公正証書遺言
法律の専門家である公証人が作成に関与する遺言書です。内容の不備で無効になるリスクがほぼなく、原本が公証役場に保管されるため、最も安全な方法とされています。
作成要件:
- 証人2名の立会いが必要
- 公証人が遺言者の口述を筆記
- 作成まで数週間程度の期間が必要
公証人の利用については、海外在住者の場合の特別な手続きもあります。
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成費用 | 無料~3,900円(法務局保管) | 10万~15万円前後 |
| 作成方法 | 本人が全文手書き | 公証人が作成 |
| 証人 | 不要 | 2名必要 |
| 家庭裁判所の検認 | 必要(法務局保管の場合は不要) | 不要 |
| 無効リスク | あり(形式不備の場合) | ほぼなし |
| 保管 | 自宅または法務局 | 公証役場に原本保管 |
| 外国語での作成 | 可能 | 日本語が原則(通訳可) |
| 所要期間 | 即日可能 | 2~4週間 |
外国人の場合は、法的安全性の高い公正証書遺言が推奨されます。通訳を介して日本語以外で作成手続きを進めることも可能です。
遺言書における不動産の正確な記載方法
遺言書で不動産を指定する際、最も重要なのは不動産の正確な特定です。曖昧な記載では法務局で受け付けられず、相続登記ができない事態になります。
登記事項証明書に基づく記載
不動産は必ず全部事項証明書(登記簿謄本)の表題部を書き写す形で記載します。「自宅の土地と建物」といった曖昧な表現は無効の原因となります。
土地の記載例:
所在:東京都○○区○○町○丁目
地番:○番○
地目:宅地
地積:150.00平方メートル建物の記載例:
所在:東京都○○区○○町○丁目○番地○
家屋番号:○番○
種類:居宅
構造:木造スレート葺2階建
床面積:1階 80.00平方メートル
2階 60.00平方メートル土地と建物は別々に記載
日本では土地と建物は別個の不動産として扱われます。マンションの場合は「敷地権の表示」も含めた区分所有建物としての記載が必要です。
「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
遺言書の文言も重要なポイントです:
- 法定相続人への場合:「○○に相続させる」と記載
- 相続人以外への場合:「○○に遺贈する」と記載
この使い分けは不動産登記の手続きにも直接影響し、「遺贈」の場合は登記手続きがより複雑になります。
外国人特有の注意点と準拠法の問題
外国人が日本で遺言書を作成する際には、日本人とは異なる特有の問題があります。外国人の不動産所有権を理解した上で、以下の点に注意が必要です。
準拠法の選択
日本の「法の適用に関する通則法」第36条により、相続に関する準拠法は被相続人の本国法とされています。ただし、不動産については所在地法(日本法)が適用される場合があり、遺言書で準拠法を明示しておくことが推奨されます。
遺言書に以下のような条項を入れることで、法的な曖昧さを回避できます:
「本遺言における日本所在の不動産に関する事項については、日本法を準拠法とする」
必要書類の準備
外国人が遺言書を作成する際に必要な書類は以下の通りです:
- パスポート(身分証明)
- 在留カード(日本在住の場合)
- 印鑑登録証明書(日本で印鑑登録している場合)
- 宣誓供述書(海外在住で印鑑証明がない場合)
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
母国での遺言書との整合性
日本の不動産に関する遺言と、母国で作成する遺言の内容が矛盾しないように注意が必要です。理想的には、日本の不動産については日本法に基づく別途の遺言書を作成し、母国の遺言書では日本の不動産を対象から除外することが推奨されます。
遺留分への配慮と対策
日本の相続法では、法定相続人には「遺留分」という最低限の相続割合が保障されています。遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、相続人から「遺留分侵害額請求」が行われる可能性があります。
遺留分の割合
| 相続人の構成 | 遺留分の合計 | 各相続人の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 1/2 | 配偶者:1/2 |
| 配偶者と子 | 1/2 | 配偶者:1/4、子:1/4 |
| 配偶者と父母 | 1/2 | 配偶者:1/3、父母:1/6 |
| 子のみ | 1/2 | 子:1/2 |
| 父母のみ | 1/3 | 父母:1/3 |
遺留分を考慮しない遺言書は、不動産に関する紛争の原因となります。特に不動産は分割が困難な財産であるため、遺留分に相当する金銭を別途準備する「代償分割」の方法も検討すべきです。
相続登記の義務化と外国人への影響
2024年4月1日から施行された相続登記の義務化は、外国人にも重大な影響を与えます。相続により不動産を取得した場合、3年以内に相続登記の申請が必要であり、正当な理由なく申請を怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。
遺言書を事前に作成しておくことで、以下のメリットがあります:
遺言書がない場合、相続人全員の同意が必要な遺産分割協議を行う必要があり、相続人が海外に散在していると手続きに大幅な時間がかかります。
専門家への相談と費用の目安
遺言書の作成は、法的に有効かつ実務的に機能する内容にするために、専門家のサポートを受けることが強く推奨されます。外国人の場合は特に、国際相続に精通した専門家を選ぶことが重要です。
相談先の選択
- 弁護士:複雑な相続問題や紛争が予想される場合に最適。費用は10万~30万円程度
- 司法書士:不動産登記に特化。費用は5万~15万円程度
- 行政書士:遺言書の作成サポート。費用は5万~10万円程度
- 税理士:相続税の計算と申告。費用は20万円~
費用の目安
| サービス内容 | 費用の目安 |
|---|---|
| 自筆証書遺言の作成相談 | 3万~5万円 |
| 公正証書遺言の作成サポート | 10万~15万円 |
| 公証人手数料(財産5,000万円の場合) | 約29,000円 |
| 証人日当(1名) | 5,000~10,000円 |
| 遺言執行者の選任 | 30万~100万円 |
| 英語対応の法律相談 | 1時間1万~3万円 |
不動産会社・仲介業者の選び方と同様に、外国語対応ができる専門家を選ぶことが重要です。外国語対応の重要事項説明に対応できる事務所は、遺言書作成でも外国語サポートが期待できます。
まとめ:遺言書作成のステップ
外国人が日本の不動産に関する遺言書を作成する際の手順を以下にまとめます。
- 不動産情報の収集:登記事項証明書を取得し、正確な情報を確認する
- 準拠法の確認:母国法と日本法の適用関係を整理する
- 相続人の確定:法定相続人を把握し、遺留分を考慮する
- 遺言の方式を選択:公正証書遺言が推奨される
- 専門家への相談:国際相続に精通した弁護士や司法書士に依頼する
- 遺言書の作成:不動産を正確に記載し、準拠法条項を含める
- 定期的な見直し:不動産の売買や家族構成の変化に応じて更新する
日本で不動産を所有するすべての外国人にとって、遺言書の作成は将来の安心につながる大切な準備です。早めに専門家に相談し、法的に有効な遺言書を作成しておくことを強くお勧めします。不動産購入手続きと流れの最終段階として、遺言書作成も計画に含めておきましょう。
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